なよたけ物語

特別寄稿  研究に至るきっかけと現在の活動


実践女子大学生活科学部食生活科学科 専任講師
平成十五年生活科学部食生活科学科管理栄養士専攻卒
森川 希



実践女子学園中学校・高等学校から実践女子大学生活科学部食生活科学科管理栄養士専攻。
同大学副手を経て、横浜市立大学 大学院医学研究科博士課程修了(学位:博士(医学)
実践女子大学生活科学部食生活科学科非常勤講師を経て、
平成 24年より専任講師(公衆栄養学担当)。
横浜市立大学医学部社会予防医学教室客員研究員。

子どもの頃は、あまり活発なほうではなく、大勢で遊ぶよりは一人で好きなことに熱中するタイプでした。実践との出会いは、小学校六年生の秋に、実践女子学園中学校・高等学校のときわ祭を見に行ったことがきっかけでした。地元の校風に馴染めず、母の勧めで私立への進学を決めて1年余りの時期でした。実践の先輩方の優しさや和やかで自由な校風はすぐに私を惹きつけましたが、特に中学器楽部の演奏が魅力的で、自分もあの中に入りたいと思い、受験を決めました。幸いにも、母が実践の教育方針「堅実にして質素、しかも品格ある女性の育成」に共感しており、難なく志望校が定まりました。入学してからはもちろん器楽部に入りました。学友にも恵まれ、6年間のびのびとした環境の中で充実した日々を過ごしました。この間、家庭環境の影響で、様々な機種のワープロを使いこなし、パソコンやインターネットも同級生の中ではいち早く使用していました。学校のノートも、これらを駆使して独自の方法でまとめており、試験前はそれを印刷したものを通学電車の中で読み返すだけで足りました。なるべく勉強時間を短縮しようという横着な気持ちからでしたが、気づけば作業のそのものが趣味にもなっていました。「既存ツールを最大限活用し効率的に目標を達成する方法を探る」という、研究に通じる信念のようなものがすでにあったのかもしれません。


実践女子学園がちょうど創立100周年を迎える年に、生活科学部食生活科学科管理栄養士専攻に進学しました。在学中は、せっかく大学に来たのだからと、専門科目に留まらず人文系の科目も積極的に履修し、放課後は軽音楽部の活動にも力を注いでいました。職業としての管理栄養士への志向は強くなかったという意味では、模範的な学生ではなかったかもしれません。それでも、日々の細やかな努力が実り、現・田島眞学長が担任だった3年次に、下田奨学金の給付を受けられたことは、現在も大変有難く記憶しております。また、その頃には、専門科目の実験・実習を通して、研究への興味が高まっていました。そして、当たり前のように、大学院に進学することを考え始めました。さて、女子大を出て、さらに大学院まで進学するとなると、その後の就職や結婚の心配などをされる親御さんも多いのではないかと思います。しかし当時の私は、母からも当然理解を得られると思っていましたし、実際、微塵も反対されることはなく現在に至っております。これまでの実践との長い関わりの背景には、常に私の意志を尊重してくれた母の存在があるといって良いでしょう。唯一、進学にあたっては資金の問題がありました。これについては、卒論をご指導いただいた青木洋佑教授から、副手になることを勧められ、まずは3年間、研究もできる仕事をしてから進学することにしました。

当時は、主にマウスを使い、食品成分の免疫機能に対する影響を調べていました。その中で、企業との共同研究として、特定保健用食品の申請のための食品の臨床試験を行なったことがありました。実習準備や事務作業の合間に、被験者である学生さんとの連絡調整、調査票や生体資料の回収などに奔走しました。当時の自分のキャパシティを上回る状況でしたが、人間を対象とした研究に初めて関与したことで、人々の食生活により近い領域の研究に関心が向く契機ともなりました。

また、青木教授の計らいで、国際学会で研究発表を させていただけたことも、大きな経験になりました。

副手の任期を終えてからは、横張市立大学大学院医学研究科情報システム予防医学 (現疫学・公衆衛生学) 部門へ進学しました。研究室では、生活習慣病の予防に関わるデバイスの開発や介入研究が行われており、医師、薬剤師、管理栄養士のほか工学系出身者など多様な専門性の学生が在籍していました。その中で、管理栄養士としてできることを模索していきました。主に取り組んだのは、肥満者への減量指導や、高血圧の予防・改善のための減塩指導のツールに関する研究でした。周知のように本邦の死因の上位には循環器疾患があり、その予防対策のひとつに減塩があげられています。食習慣を変えることは容易ではありませんが、食塩については、そもそも対象者が自分の食塩摂取量を把握しづらいことも問題の一つと考えました。当時の研究室ではすでに、夜間尿から24時間尿中塩分排泄量を推定する簡易測定機器を開発されていたことから、それを多くの人が使えるツールとなり得るかという観点で検証していきました。

減塩に関する研究は、現在の担当授業や卒業研究にも引き継がれています。公衆栄養学の学内実習(管理栄養士専攻)では、昨年から新たに24時間蓄尿による食塩摂取量の測定実習を取り入れています。栄養食事指導のための食事調査は、食べた物を記録する方法や、聞き取り調査によって行なうのが一般的ですが、いずれの方法でも、調味料や加工品に含まれる食塩摂取量を正確に把握することは困難です。そこで、摂取した食塩の約9割が尿中に排泄されることを利用して、尿の分析をします。専用の容器に、丸一日分の尿を採ってきてもらう必要があるため、なかなか大変ですが、学生からは「自分が思っていたより塩分をとっていた」「正確に調査することの大変さがわかった」といった声が聞かれます。

専任教員として着任して、早くも5年目になりました。途中、産休を取得した際には、食生活科学科の先生方に多大な支援をいただいたばかりでなく、授業を受けていた学生からのお祝いのメッセージカードをいただくなど、実践の温かな校風に助けられました。さらに、娘が保育園に入園した当初の担任の先生が、実践の卒業生だったという奇跡的なご縁もありました。

教育、研究、育児と目まぐるしい毎日ですが、長い歴史の中で作り上げられてきた実践の教員と学生あるいは卒業生と地域の関係を次世代に繋いでいくことも大切な任務のひとつと考え、日々を大切に過ごしています。

(森川 希)  「なよたけ情報版No.22」(2016.10.1)掲載